大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和47(オ)820 判決

主 文

原判決中上告人ら敗訴部分を破棄し、右部分につき本件を東京高等裁判

所に差し戻す。

理 由

上告代理人大野正男、同西垣道夫の上告理由第一、一ないし三について。

原判決は、

(一) 本件事故発生について本件電気室主任技官Dに過失があつたかどうかの判

断にあたつては、第一審判決を引用し、次のような判示、すなわち、「およそ本件

電気室の如く高圧電気が流入しこれを調整する諸装置が設備されている区域におい

て清掃等の作業をなした上、一旦中止していた区域への送電を再開するような場合

においては、その区域の主任技術者であつて当該作業を指揮監督する立場にあるも

のは、作業関係者に対し、通電が再開されることをもれなく明示して確実に告知し、

高圧電気の流入に伴う危険に対する注意を喚起」するなどし、もつて作業関係者の

感電事故の発生を未然に防止すべき指揮監督上の義務があるところ、Dは、本件電

気室の主任技官として本件作業を指揮監督する立場にありながら、右注意義務を懈

怠した旨認定判断した上、「Eが本件事故当時既に変成器に通電されていることを

認識していたとは認められない以上、Eの本件感電死事故は」、Dが右注意義務を

十分に果さなかつた過失により惹起されたものと認めるのが相当である、と判示し、

Eが本件事故当時本件変成器に通電されていることを認識していなかつたとの事実

を前提にDの前記注意義務懈怠の過失とEの本件感電死事故との間に相当因果関係

があると判断しながら、他方、本件事故発生についてEに過失相殺の対象となりう

る過失があつたかどうかについての判断においては、「一旦閉じられた通電が再開

されて、本件電気室まで高圧電流が送電されたことも事故直前にはE自身も知つて

いたものと推認される」とした上、本件事故発生についてEにも過失があつたと判

- 1 -

示し、Eが本件事故直前に本件変成器に通電されていることを認識していたかどう

かの点につき前後相矛盾する認定をし、�

(二) また、DがEに対し閉めるよう命じた本件電気室の西側壁中三か所に設け

られている回転窓と本件変成器との関係につき、第一審判決を引用し、「それらの

窓は土間から窓下まで約二・二メートル、同じく窓上部までは約二・七メートルの

高さにあり、それらの内最南寄りの窓際には」、「開閉器を挿入すると本件電気室

内の装置中まず最初に通電する変成器が設置されていた。その変成器は、土間上約

一・二メートルのところに据え付けられている高さ約〇・六メートルの箱型のもの

で、その上部に後記端子がとりつけられていた。この変成器を支える鉄製パイプは、

窓際部分においては西側壁から僅かに三七センチの距りを有するにすぎないところ

に設けられていた」との事実を確定し、かつ、Dの過失の有無の判断においては、

本件のような作業を指揮監督する立場にある者は、「通電が開始された場合に高圧

電流に接触することがあり得る器械設備の周辺にいる作業員に対しては退避を命じ

るとか挙動の細部についてまでも具体的な注意を指示するなど」の注意義務がある

ところ、Dは、「Eが前記高窓を閉めるため前記変成器に接近することを当然予想

し得た筈である」のにもかかわらず、右注意義務を懈怠したとして、この点におい

てもDに過失があると判示し、Eが、本件変成器、したがつてまたその端子に接触

することのあり得る作業を命ぜられたことを前提とする判断を示しながら、他方、

Eの過失の有無の判断においては、本件変成器の「端子に触れるおそれのある種類

の作業をEが命じられたことの窺われない本件において」は、これに接触したEに

も過失があると判示し、Eが本件変成器の端子に触れる作業を命ぜられたかどうか

の点についても前後相矛盾する認定をしていることが明らかである。

したがつて、原判決には理由そご又は理由不備の違法があるものというべきであ

り、この違法をいう論旨は理由があるから、その余の論旨につき判断するまでもな

- 2 -

く、原判決中上告人ら敗訴部分は、破棄を免れない。

よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す

る。

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 坂 本 吉 勝

裁判官 関 根 小 郷

裁判官 天 野 武 一

裁判官 江 里 口 清 雄

裁判官 高 辻 正 己

- 3 -

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!